東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)204号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告ら主張の審決取消事由について判断する。
1 取消事由(一)については後に検討することとし、まず取消事由(二)について検討する。
(一) 本願発明の入力部は、前記当事者間に争いのない特許請求の範囲の記載によれば、「各パチンコ機械から無作為に送られてくる情報を一時的に蓄える入力部」と規定されている。成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、右入力部についての一般的な説明としては右特許請求の範囲と同じ文言を用いた説明(同号証二欄二三ないし二五行)以外にはないが、実施例による本願発明のデータ処理方式の作動の説明として、「入力部1はレジスタを使用し、各パチンコ機械からそれぞれ無作為に送られてくる入玉、出玉の並列情報、即ちデータ信号を計数部2に送るまで一時蓄えておく。この蓄えられた信号(情報)は制御部4により制御されて一定の順序と周期のもとに順次計数部2に送られる。」との記載(同三欄二〇ないし二五行)があり、図面に示された同実施例のブロツク線図(別紙第一図)には、入力部1を示すブロツク1が図示されていること、他に右入力部の具体的な構成についてこれを明らかにする記載はないことが認められる。
特許請求の範囲と発明の詳細な説明における入力部に関する右の記載を比較すると、特許請求の範囲には、「無作為に送られてくる情報を一時的に蓄える」とあるのに対し、発明の詳細な説明の実施例の説明には、「無作為に送られてくる……並列情報……を一時蓄えておく。」とあつて、特許請求の範囲には、蓄えておく信号が実施例に示された並列状態の情報のみでないことが明らかにされていることが認められる。そして、成立に争いのない乙第四号証、乙第七号証、乙第一八号証、乙第二一号証によれば、本願出願前、無作為の並列状態で入力される情報を処理するデータ処理方式において、入力部の複数のチヤンネルに到達する無作為並列信号を各チヤンネルごとに設けられた一時記憶回路に入力して蓄えた後、走査選択機能を有するマルチプレクサのような素子を介して、制御器の指令に応じ、直列信号として一定の順序と周期のもとに次の計数部へ送る方式と、入力部の複数のチヤンネルに到達する無作為並列信号を前記マルチプレクサのような素子により走査選別して直列信号とし順次一時記憶回路に送りこれを蓄え、制御器の指令に応じ、この直列信号を一定の順序と周期のもとに次の計数部に送る方式の二種の方式が周知であつたことが認められる。右のいずれの方式においても、その入力部は、無作為に送られてくる情報を入力して、計数部へ送るまで一時的に蓄える一時記憶回路を有するものであるから「無作為に送られてくる情報を一時的に蓄える入力部」に該当することは明らかである。また、この入力部に一時蓄えられた情報は、制御部の指令により一定の順序と周期のもとに順次、次の計数部へ送られるものであるから、右の二種の方式はデータ処理の方式においても異なるところはないと認められる。
原告らは、本願発明における入力部は、「無作為に送られてくる並列情報を、計数部に送るまで、並列状態のまま一時的に蓄えることのできる入力部」であると主張するが、右に述べたとおり、本願出願前すでに周知であつた右の二方式の入力部がともに、本願発明の特許請求の範囲に記載された「無作為に送られてくる情報を一時的に蓄える入力部」に該当すると認められる以上、これを明細書に示された実施例の説明によつて限定して解釈することはできないから、原告らの右主張は失当というほかはない。
(二) 成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例図9-5(別紙第二図(一))の装置における入力部が入力部のターミナルに入つてくる無作為の並列パルス信号を、信号調整した後マルチプレクサにより高速サンプリングして、状態レジスタに一時記憶させる構成を有するもので、右(一)に述べた二種の方式のうち後者の方式に該当するものであることが認められる。したがつて、右入力部は、本願発明の入力部に該当することが明らかであり、審決が「無作為に送られてくる情報を一時的に蓄える入力部」が第二引用例に記載されていると認定したことに事実誤認はない。原告の取消事由(二)の主張は失当である。
2 次に、取消事由(一)と同(三)について検討する。
(一) 審決の理由3(一)の本願第一発明と第二引用例のデータ処理方式の一致点の認定につき、原告らは入力部が一致するとの点を除き、その余の点の認定を争つていない。そして、入力部においても両者が一致することは前叙のとおりである。そうすると、本願第一発明と第二引用例とは、前者がパチンコ機械のデータ処理を目的とするのに対し、後者がプロセス工業における各種機器のデータ処理を目的とすることから由来する審決認定の両者の相違点(この相違点が存することは、原告らも認めるところである。)を除き、両者はその構成においてすべて一致するものと認められる。
一方、成立に争いのない甲第三号証及び乙第一二号証によれば、第一引用例は、読売新聞に掲載された「パチンコ屋にもコンピユータ」と題する記事を転載した業界新聞の記事であつて、この記事の読者は、パチンコ機械の各台の裏に取付けた装置からコードを通じてその時々の状況が事務所内のマジツクボツクスと呼ばれる装置に送られ、この装置において各台の入玉数、出玉数、その積算数、店全体の出玉率等が刻々表示されるものであり、それは軽便コンピユータといえる記憶装置を利用していることを少くとも理解できることが認められる。
右認定の事実によれば、第二引用例により、「無作為に送られてくる情報を一時的に蓄える入力部と、各番地ごとに分類して情報をカウントする計数部と、機械ごとに分類して稼動内容を記憶する記憶部と、これら入力部、計数部及び記憶部をコントロールする制御部と、記憶部からの信号を計算する計算部と、計算部からの計算数値を印字する印字部と、記憶部と計算部とを操作する操作部とからなり、操作部を操作することにより計算部を介して記憶された情報を計算し印字する機械のデータ処理方式」を知つた当業者が、第一引用例により、パチンコ機械ごとのデータ処理にコンピユータが用いられることを知れば、本願発明の目的である「各パチンコ機の稼動状態のデータを自動的に収集し、必要な時にはいつでもその状態を速やかに知ることができる」(前掲甲第二号証本願特許公報二欄八ないし一〇行)ように、また、「自動的に収集された各パチンコ機のデータを順次必要な数値に計算して表示或は印字して読取ることができる」(同二欄一三ないし一五行)ように、第二引用例のデータ処理方式を利用して本願発明の構成に想到することは、容易であると認められる。もつとも、原告ら主張のとおり、第二引用例のデータ処理方式がプロセス工業を対象とするため、パチンコ機を対象とする本願発明のデータ処理方式より高性能のCPUやその周辺機器を必要とするものであるけれども、パチンコ機のデータ処理に適合する性能のCPUやその周辺機器を選択する程度のことは、コンピユータ利用についての当業者が容易になし得る範囲のことと認められるから、右の点は前記の判断に影響を与えるものとはいえない。
(二) 原告らは、第一引用例についての審決の認定を論難するけれども、処理の対象であるデータがパチンコ機からのものであるかプロセス工業のものであるかの差異を除き、その構成において本願第一発明が第二引用例のものとすべて一致すると認められる本件においては、第一引用例は、パチンコ機のデータ処理にコンピユータが用いられることを開示する程度で右(一)に述べた判断に達するに十分と認められるのであり、第一引用例に右の開示がされていることは前叙のとおりであるから、取消事由(一)の主張は採用の限りでない。
(三) 原告らが取消事由(三)において主張するところは、いずれも、取消事由(二)において主張した本願発明の入力部が「無作為に送られてくる並列情報を並列状態のまま一時的に蓄えることのできる入力部」であることを前提に、このように情報を並列状態のまま一時的に蓄えておく部材ないし回路が第二引用例の入力部に存在しないとして立論するものであるところ、本願発明の入力部が第二引用例の入力部と一致するものであり、当業者であれば、第一、第二引用例から本願第一発明に想到することが容易であると認められること前叙のとおりであるから、取消事由(三)の主張は理由がない。
3 以上のとおり、原告らの主張する取消事由はいずれも理由がなく、審決の認定判断にこれを取り消すべき違法な点は認められない。
三 よつて、原告らの本訴請求を棄却することとする。
〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。
1 各パチンコ機械から無作為に送られてくる情報を一時的に蓄える入力部と、各パチンコ機械の番地ごとに分類して情報をカウントする計数部と、各パチンコ機械ごとに分類して稼動内容を記憶する記憶部と、これら入力部、計数部及び記憶部をコントロールする制御部と、前記記憶部からの信号を計算する計算部と、該計算部からの計算数値を印字する印字部と、前記記憶部と計算部とを操作する操作部とからなり、該操作部を操作することにより計算部を介して記憶された情報を計算し印字することを特徴とするパチンコ機械のデータ処理方式。
2 記憶された情報を表示する表示部を設け、該表示部に操作部を操作することによつて各パチンコ機械の情報を任意に表示し得ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のパチンコ機のデータ処理方式。
3 特許請求の範囲第1項記載のデータ処理方式において、制御部と計算部との間に予定数超過表示部を設け、操作部の指示によつて計算部が入玉、出玉の数を各番地毎に計算し、出玉の数が入玉の数を差引いて予定数を超えた時に自動的に前記予定数超過表示部にその番地を表示すると共に報知することを特徴とするパチンコ機械のデータ表示方式。